厚生文教常任委員会道内先進地行政視察報告書 -6- 本別町
(1)認知症高齢者地域ケア推進事業「もの忘れ散歩のできるまち ほんべつをめざ して」
① 平成10年介護保険の開始に向け、国からの要請を受け高齢者の実態調査を行 った。
ⅰ この調査の結果、要援護高齢者のうち、施設で7割、在宅で4割と多くの人 に認知症の症状が見られた。
認知症についての相談は、中度・重度の場合で、在宅介護が破綻した状態に なってからのものがほとんどであった。もう少し早く相談をしてくれればと 思われる場合が多かった。
ⅱ 今後、後期高齢者(75歳以上)の増加は必至で、これに伴い認知症高齢者 の増加が予測された。介護保険だけでは対応できない。介護保険と合わせ、 認知症高齢者対策をきちんと行わなければならないと考えた。
② 平成11年、地域ケア研究会を立ち上げる。
ⅰ これは保健福祉課や病院をはじめとする保健・医療・福祉の関係者、介護サ ービス事業者、社協、民生委員などの福祉団体や地域住民代表、そして学識 経験者(アドバイザー)として長野大学鷹野和美教授をメンバーとする。 ⅱ 介護者を通して、アンケート調査を行った。その中でいくつかの課題が明確 になった。
家族が認知症になっていると思っても、どこに相談していいか分からず、相 談に結びつくまで1年以上かかる人が5割を超える。
医師の診断を受けた人は4割程度にとどまる。
地域の、隣近所の支援を受けたことのある人は3割程度にすぎない。
ⅲ 以上の明らかになってきた問題の解決のため、まず3年間の事業展開を定め、 各年ごとの重点項目を定めた。(12年から具体的事業が始まる)
③ 住民と関係者に認知症を正しく理解して貰うための啓蒙・啓発活動を行った。
ⅰ 認知症の初期の状態を説明するパンフレットを作り、全戸配布をした。
ⅱ 住民参加による介護劇を行った。
当初は役場職員が舞台に上がったが、住民・関係者が参加することで、理解 が深まった。当初観客は200名位、後になると300~400名位の人が 来場する。
ⅲ 福祉講演会を行った。
アドバイザーである長野大学鷹野和美教授による認知症の講演を行う。
ⅳ 介護を担当する専門職の学習会を行った。
ケア担当者がきちんと理解していないと、認知症を悪化させる場合がある。
④ 平成12年より自治会を単位とした認知症予防教室を開く。
ⅰ 保健師と地域住民の協同事業として行う。
地区民生委員、老人クラブ、自治会役員などと保健師が一緒になって、1年 間月1回の割合で開催する。
1年たって、やり方が分かったところで、地区の自治活動として定着する。
ⅱ 町の保健センターなどで行う○○教室は、そこまで出てこられる元気なお年 寄りの集まりになってしまう。自治会単位にしたことで、本当に必要な人が 自宅のそばの歩いていける、顔見知りの集まりに参加できることが大事と考 えた。
町内全ての地区で一斉に行うことは不可能、1年間に1~3の自治会でこの 事業を行い、年々数を増やしている。
ⅲ 内容は
自己紹介、手遊び、オセロ・碁・将棋などのゲームなど、各地区で話し合い 自主的にメニューを決めている。
元気なお年寄りが、弱った高齢者の面倒を見ることで、介護予防につながる。
⑤ 平成13年 早期診断体制、医療との連携を図る。
ⅰ 認知症の相談は保健師やケアマネージャーが受けていたが、医療に繋ぐため、
国保病院(総合ケアセンターの隣)に認知症担当医(内科医)を配置した。
また、ソーシャルワーカー(医療福祉相談員)が窓口になって相談に乗り、 診察の必要な人、医師との相談の必要な人など振り分けを行っている。
ⅱ 国保病院には、北海道の精神科サテライトクリニックがある。これは週に一 度、帯広などから医師が派遣され、慢性期のフォローのみを行うものであっ たが、病院同士で協議し、国保病院で検査等を行い、データをそろえて紹介 する患者を診ることになった。認知症につき、地元の病院で精神科医への受 診が可能となった。
ⅲ 平成15年「ものわすれ外来」を開設した。
一時担当する医師が不在となり休診したが、平成19年再開している。
⑥ 平成14年家族を支援する事業を始める。
ⅰ 家族支援、介護者支援の視点から、地域で・住民の手で支援ができないか、
家族と本人にやすらげる場を作ることを考えた。
認知症高齢者の家族は、同居別居を問わず常時見守りをしていなければなら ない。介護サービスを利用していても、家族の負担は軽減されていない。本 人も、サービス利用のない日は家に閉じこもりがちになる。不安や寂しさか ら周辺症状(徘徊、譫妄など)が生じることもある。
会員相互の支援として留守番サービスを行っていた「在宅介護者を支える会」 や関係機関、部局と協議し、準備に1年をかけ、 介護家族、サービス事業者、 ケアマネージャー、地域ボランティアなどの声をもとに事業を組み立てた。
ⅱ 「やすらぎ支援事業」
認知症高齢者を介護する家族を支援する事業。
地域の研修を受けたボランティアが家庭を訪問し、見守りや話し相手をする。 その間家族は息抜きができる。
家族にとっては、介護からの開放時間、認知症の人への関わり方を学ぶ機会 となる。他人が入ることで自分の肉親をゆとりを持って客観的に見ることが でき、新たな本人像を発見することにもなる。
本人にとっても、安心できる、穏やかな時間をもてる、家の外とのつながり ができる。
認知症高齢者家族自治体支援事業として始める、平成18年度からは地域支 援事業の任意事業となる。全国でも珍しい事業として注目を浴びる。
ⅲ 事業主体は町、コーディネートはケアマネージャーが行う。
活動は、有償ボランティアとして「在宅介護者を支える会」が中心となって 担っている。平均年齢は67歳、同時代を共有できることが大事と言う。
利用料金は1時間100円、支援者には1時間400円を支払う。利用者は 10名程、支援者として登録している人は25名となっている。
利用者には、周辺症状がみられなくなり、笑顔がみえるなど、精神的落ち着 きを取り戻す効果が顕著にみられ、介護度も進まず在宅の継続がはかられる。
⑦ 平成14年「もの忘れ地域ネットワーク事業」を、社会福祉協議会が中心とな って具体化する。
ⅰ 地域ケア研究会の会員、特に住民の代表の皆で、地域で認知症高齢者を支え るにはどうすべきかを考える。
認知症に対する理解不足もあいまって、認知症高齢者を地域から排除する傾 向がある。
たとえ認知症になっても、今まで暮らしていた地域との関係を断ち切られる ことなく暮らして行くにはどうすべきか、隣近所の人が見守りや生活支援を するにはどうすべきか、を考えた。
ⅱ 平成17年、一つの自治会をモデル地区として事業を展開する。
社協の職員、保健師、地域のワーキングチームが月1回集まり協議する。
支援対象者を地域で把握する。認知症予防教室の周知を行う。
不参加の住民にいろいろな問題のある場合が多い。不参加の人の把握と支援 のあり方を協議する。
地域住民主体の事業を社協、行政がサポートする。
その中で認知症高齢者を発見したり、困りごとの相談にのるいとぐちをつけ たり、住民が認知症予防視点を持つとの効果を上げることもできた。
この結果を受け19年度からは新しい地区(2地区)での事業が立ち上げら れた。
⑧ 平成15年、国(厚労省)は「認知症を知り地域をつくる10カ年」キャンペ ーンをスタートさせた。本別町も平成17年この中心となる事業の「認知症サ ポーター100万人キャラバン事業」を実施した。
ⅰ 認知症を理解し、認知症の人や家族を暖かく見守り支援する人(サポーター) を一人でも多くつくり、認知症になっても安心して暮らせる町づくりを住民 の手で展開していく事業、現在、全国各地で行われている。
養成講座は2段に分かれる。まずサポーター養成講座の講師となるキャラバ ン・メイトを養成する。キャラバン・メイトが講師となって認知症サポータ ーを養成する。
ⅱ キャラバン・メイトには、在宅福祉ネットワーク、在宅介護者を支える会、 やすらぎ支援員、介護相談員など、今まで行ってきた多様な事業に参加して きた人を中心に呼びかけた。
キャラバン・メイトが講師となっての認知症サポーター養成講座は自治会、 JA女性部、学校、建設業協会など多様な方面で開かれている。
平成19年現在、キャラバン・メイト94名、認知症サポーター507名と なっている。
ⅲ 平成19年、事業を始めて2年がたち、キャラバン・メイトによる自主研修 が少なくなってきたこともあり、認知症高齢者が暮らしやすい地域づくりを 再確認するため、フォローアップ研修を実施している。
今後各地域のキャラバン・メイトの連携した講座の開催を目指す。
⑨ 平成18年、SOSネットワークの再構築を図った。
ⅰ SOSネットは、徘徊などでお年寄りが行方不明になったとき、行政、警察、 町内の関係機関などが連携し、捜索に当たる「緊急システム」。
十勝地区は、各保健所管内で設立されていたが、平成18年本別町は生活圏 単位で、この再構築をはかった。
ⅱ 事前登録のシステムを導入し、高齢者、障害、病気などで徘徊のおそれのあ る人に勧めている。希望により、前もって(徘徊のおそれのある)認知症高 齢者等の登録をして貰う。前もって高齢者等の情報が共有されていることで、 捜索が素早くできる。(勿論、登録者以外の人も緊急時の対象となるが、前 もって特徴等が登録されていることで関係者への連絡も早く、その分捜索、 発見も早い。)
家族の希望や承諾があれば、登録情報を地域に公開する。地域でその高齢者 等の見守りが行われる。
自治会長、民生委員や発見に必要な機関には登録者の特徴を含めた情報が渡 されている。個人情報保護の壁を破ることができる。
現在登録者39名、この方式を始めるとき担当者が予想したよりも遙かに多 い登録があった。今まで行われて来た多様な事業により、認知症高齢者に対 する地域全体の理解が進んだためと思われる。
(2)10年間の成果
① 担当者から見て
ⅰ 早期の相談が増えている。
予防段階からのマネージメント、支援ができる。
ⅱ 相談の内容が変化している。
施設や医療機関への入所・入院の相談から進行防止のための相談へと変化し ている。
ⅲ 認知症、痴呆症との言葉にそう抵抗が無くなった。理解が浸透してきた。
ⅳ 関係機関、部局、地域住民、医療機関の連携が深まった。
民生委員とはお互い高齢者福祉に関わる活動との判断で情報の開示・共有が できている。
② 地域の変化・住民の意識の変化
ⅰ 協働事業の展開により、住民同士、住民と行政、住民と事業所など人のネッ トワーク化が進む。
ⅱ 認知症の理解・早期発見などに、地域住民の力量が向上した。
問題意識の変化が生じ、医療福祉の問題解決が単に行政の課題としてとらえ るだけでなく、地域も含めた問題として考えるようになった。(「そんなこと は行政の仕事」から「一緒に考えて一緒にやろう」に)
③ 事業の効果
ⅰ 元気なお年寄りの活躍(社会参加)の場ができた。
自分を必要とする人がいる。生き甲斐が本人の介護予防につながる。
ⅱ 元々地域にあった人的資源に付加する形で、認知症予防教室協力員、認知症 サポーター、認知症キャラバン・メイト、見守り(やすらぎ)支援員など、 いろいろな地域での活動が組織化され役割を果たしている。
④ 「もの忘れ散歩のできるまち ほんべつをめざして」の事業は、
ⅰ 認知症への理解
ⅱ 地域とのつながり
ⅲ 認知症があっても自立 の三つをテーマに
「認知症になっても」「今まで通り」「ここで暮らす」
ことを目的に今後も進めていくと聞いた。
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